夏凯俳句三百首
夏凯俳句三百首
夏凯 著
夏凯(1986—)浙江临安人。俳人,俳号青竹。日本世界俳句协会会员。
目录
1 捨舟に白雪を積む寒の川
2 水月に姿を写す梅真白
3 月や梅は鏡を見て薄化粧
4 川上に一月一日の青い山
5 結氷音二百零四個骨動く
6 体内の銀河の流れ透明に
7 春水に毛筆洗って墨愁ふ
8 春時雨夜の傘浮いて低い音
9 蜂王宫に金屋の八百軒
10 断橋に朦朧と影よ蛇衣
11 白魚に溺れて月光一寸かな
12 枯荷や万柄の戦音を聞く
13 千山の雪を抱いて銀屏風
14 海神の碧き目が澄む春の海
15 白酒や暴言を吐く月は知己
16 白魚や月を追って移動する
17 秋日影や白雲観の白雲
18 一筋の糸の蜘蛛は汗拭けり
19 初恋や筆の先聞く春の雨
20 時計は一時中止し凍滝
21 酔顔や上元の日の灯籠
22 紙崩れ千万漢字直立し
23 毛筆の墨を残して朧なり
24 長江や大月流し波の音
25 秋日和衝天一鶴気勢高し
26 流觴や忘我一笔泥酔す
27 初句会二十四橋玉人立つ
28 初句会座中一気呵成三千句
29 花辛夷や月下老人の筆筒
30 黄葉や深く呼吸する秋風
31 一枝の玉が傾く雪花落つ
32 点滴が一滴落ちて雨かな
33 白乳房の起伏を見て朝寝かな
34 千年の等一回や蛇の衣
35 十六夜の巻は散乱して月光
36 自転車の轍に入って秋近し
37 体内の枯木現れX線
38 大空に姿が残って鶴来し
39 瓶底に沈殿物がある銀河
40 去年今年時時刻刻の水の逝く
41 胎児産む一燭を点じ己が命
42 暁夢を追って蝶は虚脱感
43 玉盤に細螺一つや月の峰
44 日に叙事詩月に抒情詩桜咲く
45 脳内の意識の流れ天の川
46 舞う露や一顆々消えて遲日光
47 風吹いて水の笑窪や薄霞
48 天の川無数の星の浅眠り
49 嬰児啼く悲喜交交の筆始め
50 金浮いて川一筋や初日の出
51 髪曳いて一木の美は糸柳
52 川底に七色の石眠りけり
53 椿山は香炉の如し煙立つ
54 秋灯下歌人の夢や万葉集
55 一筋の筍を剥ぐ玉の指
56 銀屏風立ててぴかぴか山眠る
57 春の雁青空万里一行詩
58 真珠一千万斗や春の雨
59 春虹や一時に消えて雨後の橋
60 山頂の半月白し松の芯
61 月は瓶清光は水春思う
62 亀鳴くや洒洒落落と詩語吐く
63 一望の砕銀や月の海上
64 大空に一頁は無の哲学
65 清光は糸張る月は蜘蛛懸る
66 春潮の起伏の声洗濯機
67 秋高し飛行機の爆音を聞く
68 廃電池の底の細流や春深し
69 寺の中南無阿弥陀仏涼新た
70 如是我闻生老病死桐一葉
71 残る雪大千世界に念澄む
72 雁渡る般若心経を返して
73 秋一日読経三昧二三沙弥
74 遠き山の霧の松や大朝寝
75 聖人の目の波淡し冬の磯
76 蘆焼くや千本の蛇の舌揚がる
77 大朝寝釈迦牟尼涅槃図寺壁
78 雨月夜の三十六峰が濡れ色
79 大海に墨汁一滴や飯蛸
80 原爆忌人間地獄図展開
81 花瓶に一輪草は曲線美
82 軒下の乞食の声や雨水の夜
83 清朝の橋の欄干に残雪
84 独活の根と立体家系図地下にあり
85 夕焼け海薬師如来の焔の網
86 梅一枝昼夜兼行洛陽へ
87 煙雨中四百八十寺法師
88 遅桜万朶山中大歩く
89 朧月日本海上船迅し
90 雁帰る伊豆の山山青し波
91 哀愁の岸に一人は搗布かな
92 電線に停る鴉の音符かな
93 一筋の秒针の音や行く春
94 金色の肉髻湧く菊の芽
95 涼風や北窓開く松の月
96 旧正や万家の門の春聯
97 春节呀,万家门上的春联。
98 紅梅や口紅一つ唇に
99 残花残照山河幾度干戈かな
100 美しき江南四月草青し
101 春暁や千紫万紅猶夢中
102 秋山や放物線を描いている
103 百花深処一僧帰や春の風
104 天の風飄々として春服や
105 春愁や五臓六腑の乱に及ぶ
106 花吹雪舟の旅人は窓開く
107 春耕の田は方眼紙の如し
108 一節を軽く敲いて竹の秋
109 万丈の糸を握つて凧揚げる
110 吾四周言論自由田螺鳴く
111 春遅や自転車をこぐ輪の光
112 扁舟や銀を満載して茅花
113 燕尾や鋏の如き雨断つ
114 空襲忌全身血管破裂する
115 羽毛状雲白一色鳥の恋
116 中庭に一樹の玉や梨の花
117 万輪の白の泡沫雪崩かな
118 夏近し風に暦が翻る
119 夕焼けて連鎖反応蜷の道
120 複眼の中の浮世や蠅生る
121 暁や白波透く霧の舟
122 初富士や縹渺たる小舟横に
123 蘆芽や千代野の十の指の先
124 初午や一帆を消して水波紋
125 網膜に地球一つの春浅し
126 この時の四方八方の春闌く
127 漂白が効果的です秋の山
128 白紙に「白」の一字の雲白し
129 美しい玉月照る春田かな
130 透明な静脈潤む春愉し
131 一筋の玉帯残る春の川
132 春満月徒溢清輝窮相思
133 春怒濤金剛力を出す獅子吼
134 天近く春星摘む玉の峰
135 清涼の一瀑掛けて春の闇
136 春雪の纷纷として国境
137 春の夢生死愛欲解脱也
138 水面に月光薄似て春蟬翅
139 晩春や小波散って翅の掠る
140 眼愁ひ朝に夕には彼岸桜
141 白雲の纷纷として羊の毛
142 朦朧と髪一筋や月の藤
143 古草の青青として膝掩う
144 月遍路一塊の一塊の舗石
145 白皿に臥して無夢は干鰈
146 一心に心経を読む息白し
147 砕玉の如き小川が流氷来
148 風恨む李賀の詩嚢へ柳絮飛ぶ
149 人間や引力による花吹雪
150 全身の毛孔を開く春風に
151 夜空や網現れて星を捕る
152 胸奥に波瀾万丈目刺焼く
153 風臨む紅粉の顔や桃の花
154 秋灯や飄逸李白沉鬱杜甫
155 流氷期記憶喪失過程中
156 雪汁が流れて雪の怪物に
157 画仙紙に墨滲み出し枯木影
158 寒林へ無名戦士の墓過ぎて
159 竹雨水万竿墨痕淋漓中
160 透徹の尿の直下余寒あり
161 良寛忌天上大書三千偈
162 銀色の鏡の中の冬の山
163 連綿の绢を裂く音冬怒涛
164 立葵太陽指針停止中
165 簾捲く夢を残して雨波紋
166 月影は沈黙の舌退いて
167 巨大な肺は青野同呼吸
168 虚構の樹の廻る紙上字母涼し
169 字字珠玉句心が湧く青葡萄
170 梵音よ海潮音よ無垢の海
171 吾近視模糊として境朧にて
172 行人の陰影描く立体感
173 秋近き十七文字や墨波纹
174 あたたかき夢の箋註や鳥語花香
175 春宵の光の流れ月を磨る
176 広々と地球儀歩む蟻の列
178 梅一輪気息奄々として降る
179 谷川は透明な舌伸ばす春
180 胴体の美の曲線や玉の汗
181 燦爛と星図が開く銀河かな
182 箋伸ばし一行詩月隠れけり
183 空が遠く交響曲の雨蛙鳴く
184 雨緑の衣の濡れ青蛙
185 里程碑の数字残して春の旅
186 天上の墨流しけり硯の夜
187 海は銀山が崩れし白波か
188 洗脳「愚」の一字の残り蟻地獄
189 純粋な海呼吸して鯨浮く
190 月光に「月光の曲」の水の音
191 皎々と月の浮世や八月十五日
192 喜雨亭中快哉叫ぶ春の雷
193 透明な山を叩いて泉湧く
194 一望の砕銀や月の海上
195 星愁ふ億万劫や天の川
196 春雨の一滴に触れる玉の肌
197 秋雨や吾の心を攪乱す
198 雨月夜や月模糊として雨心事
199 高き樹に一唱三嘆の蝉鳴く
200 高树之上,一唱三叹,蝉鸣。
201 桃花の自己陶酔や鏡中
202 少年の詩稿を焚きて秋灯下
203 秋の暮詩人は老いて詩は不朽
204 巨獣臥咆哮不休白の滝
205 名月の最も明き故郷なり
206 一筋の川の脉摶つ春の潮
207 銀箔や余白を崩す冬怒涛
208 寒雷の爆音として天崩れ
209 月満ちて天上一柄白団扇
210 一本道二三子私語息白し
211 一個々の魂の凍て大地上
212 太陽の中の火の蕊向日葵あり
213 一本の沈黙を破る梅早し
214 星透る望遠鏡の天の川
215 お時計を秒針泳ぐ時間海
216 雪晴や日光溢れて樹の白さ
217 黄葉散る金風は掃く廃寺秋
218 高潔の一筆そして梅の花
219 星空の漣として梵字書く
220 推敲をして桜散る詩眼かな
221 百代の過客光陰で泳ぎなり
222 蚊一匹我の近くを徘徊す
223 海憶う自由の国や鯨浮く
224 体内の海が傾く春愁
225 一落暉山山落暉秋の暮
226 夕波に落日遠し捨小舟
227 星辰の演奏に酔う天の川
228 飛流直下三千尺髪洗ふ
229 種浸し夜の河浮いて星無数
230 种浸,夜河上浮出星无数。
231 雪を積む光の重さ玉一枝
232 雨の月点滴の滴の空白
233 人間に愁が流れる無際限
234 春愁の細胞体まで顕微鏡
235 麻酔覚め全身真珠海明ける
236 四大の地・火・水・風あり露微塵
237 月光負う全身珠玉露の秋
238 清浄と一晩泊めて月の寺
239 百代の過客七竅春愁
240 一望の山玉の如き雪真白
241 青空や点線を引く鳥帰る
242 囀や三千世界共鳴し
243 月一分四山の濃さ梅三分
244 歯車は思想の歩幅天の川
245 熱烈な恋をしている水喧嘩
246 地球儀を転がして行く秋万里
247 履歴書にきらきら光る天の川
248 百年の沈没船に水澄めり
249 仰向いて蛍光図持つ星月夜
250 哀愁の両腹が鳴く法師蟬
251 瓶底に沈殿物がある銀河
252 澎湃と心音を聞く滝しぶき
253 万国の空清く澄む月天心
254 凍蝶を尋ねて月球の背面
255 永劫の灰が火山を覆う月
256 黒板に白墨で書く天の川
257 聴診器当てて吾が胸秋寒し
258 唇に口紅の燃え朝寒し
259 海の先天的性格怒涛来る
260 消極の詞を共に吐く冬深し
261 観覧車茫茫と森霧氷かな
262 枯山や余白埋める木の光
263 枯蘆に捨舟隠し風眠る
264 空蟬や失禁の魄散つてゐる、
265 凩や青筋立てて木の怒り
266 黄昏の十三陵や草枯るる
267 この比喩の流れの終り水涸るる
268 透明な身体傾く天の川
269 静静と地球は廻る春眠し
270 火の俳句一行の焦げ枯れ芭蕉
271 春風の吟や詩巻を翻す
272 空蟬の中の光の溢れ出す
273 永劫や琥珀の中の蚊の眠り
274 深窓の心の寂びし花衣
275 しんしんと枝に雪降る銀肢体
276 煌々と日月のπ去年今年
277 初電車脳中意識奔流す
278 水瓶や粲然として星月夜
279 漂流する吾亦憐汝梅一輪
280 十五夜の玉蟾策いて李太白
281 梅一輪壽陽公主の額に
282 寺壁に詩の一行春の雨
283 病床に瀕死の声や蟬時雨
284 白魚の泳ぐ天地の逆旅
285 頂に一息吐くや雲の峰
286 蠹魚泳ぐ時間忘れて書の海
287 脳内に銀河や意識奔流す
288 卍の字の回る仏天の川
289 乱世の变の姓名蟬の殻
290 梧桐を濯ぐ枯死けり潔癖症
291 飛行機や雲の一痕として空
292 一行の透明の诗句雨水かな
293 薄氷を踏みて一寸の裂帛かな
294 盲人の手で軽触る春落葉
295 十年の心跡の乱花吹雪
296 梅真白林逋の妻は薄化粧
297 一夜江山玉琢成雪の宿
298 鶴や獨與天地精神往來
299 冬怒濤の海の上は前衛書
300 虚無の目も一瞥しては夢の花
捨舟に白雪を積む寒の川
舍舟之上白雪堆积,寒川。
水月に姿を写す梅真白
身姿映水月,梅真白。
月や梅は鏡を見て薄化粧
月呀,梅是镜中见,淡妆。
川上に一月一日の青い山
川上,一月一日之青山。
結氷音二百零四個骨動く
听到结冰的声音,浑身的骨头都在震颤。
体内の銀河の流れ透明に
体内的银河在流动,身心变得透明。
春水に毛筆洗って墨愁ふ
春水洗笔墨生愁。
春時雨夜の傘浮いて低い音
春时雨,夜伞浮,低音。
蜂王宫に金屋の八百軒
蜂王宫,金屋八百间。
断橋に朦朧と影よ蛇衣
断桥上,朦胧之影,蛇衣。
白魚に溺れて月光一寸かな
沉溺白鱼,月光一寸吗?
枯荷や万柄の戦音を聞く
枯荷呀,万柄战音闻。
千山の雪を抱いて銀屏風
千山抱雪,银屏风。
海神の碧き目が澄む春の海
海神的碧眼是多么清澈,春天的大海。
白酒や暴言を吐く月は知己
举杯,来浇块垒,明月吾知己。
白魚や月を追って移動する
白鱼呀,追着月光,移动。
秋日影や白雲観の白雲
秋日影呀,白云观的白云。
一筋の糸の蜘蛛は汗拭けり
一条丝上的蜘蛛是在拭汗。
初恋や筆の先聞く春の雨
初恋呀,笔尖闻,春雨。
時計は一時中止し凍滝
表是一时中止,冻瀑。
酔顔や上元の日の灯籠
醉颜呀,上元日的灯笼。
紙崩れ千万漢字直立し
纸崩,千万汉字直立。
毛筆の墨を残して朧なり
毛笔之墨水残留,朦胧。
長江や大月流し波の音
长江呀,大月流,涛声。
秋日和衝天一鶴気勢高し
秋日和,冲天一鹤气势高。
流觴や忘我一笔泥酔す
流觞呀,忘我之一笔,大醉。
初句会二十四橋玉人立つ
初句会,二十四桥上玉人立。
初句会座中一気呵成三千句
初句会,座中一气呵成三千句。
花辛夷や月下老人の筆筒
花辛夷呀,月下老人的笔筒。
黄葉や深く呼吸する秋風
黄叶呀,深呼吸,秋风。
一枝の玉が傾く雪花落つ
一枝玉倾,雪花落。
点滴が一滴落ちて雨かな
点滴之一滴落,雨吗?
白乳房の起伏を見て朝寝かな
见白乳房起伏,朝寝哉!
千年の等一回や蛇の衣
千年等一回呀,蛇衣。
十六夜の巻は散乱して月光
十六夜之卷散乱,月光。
自転車の轍に入って秋近し
陷入自行车的辙迹,秋天近了。
体内の枯木現れX線
体内枯木现,X光透视。
大空に姿が残って鶴来し
天空仍余飞翔之姿,鹤已来。
瓶底に沈殿物がある銀河
瓶底的沉淀物呀,银河。
去年今年時時刻刻の水の逝く
去年今年,时时刻刻,水之逝。
胎児産む一燭を点じ己が命
胎儿生矣,一烛点燃,己之命欤。
暁夢を追って蝶は虚脱感
彩蝶逐梦渐虚脱。
玉盤に細螺一つや月の峰
玉盘中的一颗细螺呀,月之峰。
日に叙事詩月に抒情詩桜咲く
日里,叙事诗,月里,抒情诗,樱花开。
脳内の意識の流れ天の川
脑海中的意识流呀,银河。
舞う露や一顆々消えて遲日光
舞动的露珠呀,一颗接着一颗消失,迟日光。
風吹いて水の笑窪や薄霞
风吹,水之笑涡呀,薄霞。
天の川無数の星の浅眠り
银河,无数之星浅眠。
嬰児啼く悲喜交交の筆始め
婴儿啼,悲欣交集之初笔。
金浮いて川一筋や初日の出
金浮一川上呀,初日之光。
髪曳いて一木の美は糸柳
发曳,一株之美唯丝柳。
川底に七色の石眠りけり
七彩的石头安眠在河底。
椿山は香炉の如し煙立つ
茶山如香炉,云烟袅袅。
秋灯下歌人の夢や万葉集
秋灯下,歌人之梦呵,《万叶集》。
一筋の筍を剥ぐ玉の指
剥开一根笋,玉指。
銀屏風立ててぴかぴか山眠る
银屏风立,熠熠生辉,冬山眠。
春の雁青空万里一行詩
春之雁,青空万里一行诗。
真珠一千万斗や春の雨
珍珠一千万斗呀,春雨。
春虹や一時に消えて雨後の橋
春虹呀,一时消失了,雨后之桥。
山頂の半月白し松の芯
山顶之上半月白,松芯。
月は瓶清光は水春思う
月是瓶,清光是水,春思点点。
亀鳴くや洒洒落落と詩語吐く
龟鸣呀,潇洒吐诗语。
一望の砕銀や月の海上
一望无际的碎银呀,洒满月光的海上。
大空に一頁は無の哲学
天空中飘落的一页是关于无的哲学。
清光は糸張る月は蜘蛛懸る
光如丝张,月如蛛悬。
春潮の起伏の声洗濯機
洗衣机呀,传来春潮起伏的声音。
秋高し飛行機の爆音を聞く
秋高,飞机之爆音闻。
廃電池の底の細流や春深し
废电池底的细流啊,春深。
寺の中南無阿弥陀仏涼新た
寺中,南无阿弥陀佛,初凉。
如是我闻生老病死桐一葉
如是我闻生老病死桐一葉
残る雪大千世界に念澄む
残雪,大千世界中念头澄澈。
雁渡る般若心経を返して
雁渡,还般若心经。
秋一日読経三昧二三沙弥
秋一日,读经三昧,二三沙弥。
遠き山の霧の松や大朝寝
远山之雾松呀,大朝寝。
聖人の目の波淡し冬の磯
圣人之眼波淡,冬之矶。
蘆焼くや千本の蛇の舌揚がる
芦烧呀,千条蛇的舌头扬起。
大朝寝釈迦牟尼涅槃図寺壁
大朝寝,释迦摩尼涅槃图,寺壁。
雨月夜の三十六峰が濡れ色
雨月夜,三十六峰湿润的颜色。
大海に墨汁一滴や飯蛸
大海中墨汁一滴呀,饭蛸。
原爆忌人間地獄図展開
原爆忌,人间地狱图展开。
花瓶に一輪草は曲線美
花瓶中,一轮草是曲线美。
軒下の乞食の声や雨水の夜
檐下乞食之声呀,雨水夜。
清朝の橋の欄干に残雪
清朝桥栏上,覆残雪。
独活の根と立体家系図地下にあり
独活之根,地下的立体家系图。
夕焼け海薬師如来の焔の網
夕烧海,药师如来之焰网。
梅一枝昼夜兼行洛陽へ
梅一枝,昼夜兼程赴洛阳。
煙雨中四百八十寺法師
烟雨中,四百八十寺,法师。
遅桜万朶山中大歩く
迟樱万朵,山中大步。
朧月日本海上船迅し
胧月,日本海上船迅。
雁帰る伊豆の山山青し波
雁归,伊豆山山之青波。
哀愁の岸に一人は搗布かな
哀愁之岸上,一人捣布哉!
電線に停る鴉の音符かな
电线上停着的乌鸦,音符吗?
一筋の秒针の音や行く春
一根秒针的声音呀,春天在流逝。
金色の肉髻湧く菊の芽
金色的肉髻涌出,菊芽。
涼風や北窓開く松の月
凉风呀,打开北窗,松之月。
旧正や万家の門の春聯
春节呀,万家门上的春联。
紅梅や口紅一つ唇に
红梅呀,一支口红,唇边。
残花残照山河幾度干戈かな
残花残照,山河几度干戈哉!
美しき江南四月草青し
美呀,江南四月草青青。
春暁や千紫万紅猶夢中
春晓呀,万紫千红犹梦中。
秋山や放物線を描いている
秋山呀,描着抛物线。
百花深処一僧帰や春の風
百花深处一僧归呀,春风。
天の風飄々として春服や
天风飘飘,春服啊!
春愁や五臓六腑の乱に及ぶ
春愁呀,五脏六腑之乱及。
花吹雪舟の旅人は窓開く
花吹雪,舟上旅人开窗。
春耕の田は方眼紙の如し
春耕之田宛如方格纸。
一節を軽く敲いて竹の秋
一节轻敲,竹之秋。
万丈の糸を握つて凧揚げる
万丈之丝握,风筝飞扬。
吾四周言論自由田螺鳴く
我四周言论自由,田螺鸣。
春遅や自転車をこぐ輪の光
春迟呀,踏着自行车,轮之光。
扁舟や銀を満載して茅花
扁舟呀,满载白银,芦花。
燕尾や鋏の如き雨断つ
燕尾呀,好像剪刀,雨断。
空襲忌全身血管破裂する
空袭忌,全身血管破裂。
羽毛状雲白一色鳥の恋
羽毛状云,白一色,鸟之恋。
中庭に一樹の玉や梨の花
中庭一树玉呀,梨花。
万輪の白の泡沫雪崩かな
万朵白泡沫,雪崩吗?
夏近し風に暦が翻る
夏近,风中日历翻。
夕焼けて連鎖反応蜷の道
夕烧,连锁反应,蜷之道。
複眼の中の浮世や蠅生る
复眼中的浮世呀,蝇生。
暁や白波透く霧の舟
晓呀,白波透,雾之舟。
初富士や縹渺たる小舟横に
初富士呀,缥缈之小舟横。
蘆芽や千代野の十の指の先
芦芽呀,千代野的十指尖。
初午や一帆を消して水波紋
初午呀,一帆消失,水波纹。
網膜に地球一つの春浅し
视网膜上,地球一个,春浅。
この時の四方八方の春闌く
这时,四面八方,春阑。
漂白が効果的です秋の山
漂白的效果,秋山。
白紙に「白」の一字の雲白し
白纸上,白之一字,云白。
美しい玉月照る春田かな
美玉,月照春田哉!
透明な静脈潤む春愉し
透明的筋脉湿润了,春愉。
一筋の玉帯残る春の川
残留一条玉带,春川。
春満月徒溢清輝窮相思
春满月,徒溢清辉穷相思。
春怒濤金剛力を出す獅子吼
春怒涛,金刚力出,狮子吼。
天近く春星摘む玉の峰
天近,摘春星,玉峰。
清涼の一瀑掛けて春の闇
清凉一瀑挂,春暗。
春雪の纷纷として国境
春雪纷纷,国境。
春の夢生死愛欲解脱也
春梦,生死爱欲解脱也。
水面に月光薄似て春蟬翅
水面上,月光薄似春蝉翅。
晩春や小波散って翅の掠る
晚春呀,涟漪散,翅之掠。
眼愁ひ朝に夕には彼岸桜
愁眼,朝朝暮暮,彼岸樱。
白雲の纷纷として羊の毛
白云纷纷,羊毛。
朦朧と髪一筋や月の藤
朦胧之辫一条呀,月之藤。
古草の青青として膝掩う
古草青青欲掩膝。
月遍路一塊の一塊の舗石
月遍路,一块一块的铺石。
白皿に臥して無夢は干鰈
白碟上卧,无梦是干鲽。
一心に心経を読む息白し
一心读心经,息白。
砕玉の如き小川が流氷来
宛若碎玉,小川流冰来。
風恨む李賀の詩嚢へ柳絮飛ぶ
恨风,柳絮飞向李贺的诗囊。
人間や引力による花吹雪
人间呀,万有引力,花吹雪。
全身の毛孔を開く春風に
全身毛孔开,春风里。
夜空や網現れて星を捕る
夜空呀,出现一张网,捕星星。
胸奥に波瀾万丈目刺焼く
胸中波澜万丈,目刺烧。
風臨む紅粉の顔や桃の花
临风,红颜呀,桃花。
秋灯や飄逸李白沉鬱杜甫
秋灯呀,李白飘逸,杜甫沉郁。
流氷期記憶喪失過程中
流冰期,记忆丧失过程中。
雪汁が流れて雪の怪物に
雪汁流,雪之怪物身上。
画仙紙に墨滲み出し枯木影
宣纸之上墨渗出,枯木影。
寒林へ無名戦士の墓過ぎて
向着寒林,路过无名战士墓。
竹雨水万竿墨痕淋漓中
竹雨水万竿墨痕淋漓中
透徹の尿の直下余寒あり
透彻的尿直下,余寒。
良寛忌天上大書三千偈
良宽忌天上大书三千偈
銀色の鏡の中の冬の山
银色镜子中的冬山
連綿の绢を裂く音冬怒涛
连绵之裂帛音,冬怒涛。
立葵太陽指針停止中
立葵,太阳指针停止中。
簾捲く夢を残して雨波紋
卷帘,梦残,雨波纹。
月影は沈黙の舌退いて
月影如沉默之舌退去。
巨大な肺は青野同呼吸
巨大的肺是青野,同呼吸。
虚構の樹の廻る紙上字母涼し
虚构之树在纸上转动,字母凉呵。
字字珠玉句心が湧く青葡萄
字字珠玑诗兴发,青葡萄。
梵音よ海潮音よ無垢の海
梵音哟,海潮音哟,无垢之海。
吾近視模糊として境朧にて
我近视,模糊之境,胧。
行人の陰影描く立体感
行人之阴影描,立体感。
秋近き十七文字や墨波纹
秋近,十七文字呀,墨波纹。
あたたかき夢の箋註や鳥語花香
春暖,梦之笺注呀,鸟语花香。
春宵の光の流れ月を磨る
春宵之光流,磨月。
広々と地球儀歩む蟻の列
走在广阔的地球仪上,蚁之列。
梅一輪気息奄々として降る
梅一朵,气息奄奄,飘落。
谷川は透明な舌伸ばす春
在春天,溪流伸出透明的舌头。
胴体の美の曲線や玉の汗
裸体之美之曲线呀!玉之汗。
燦爛と星図が開く銀河かな
璀璨的星图展开了,银河呀!
箋伸ばし一行詩月隠れけり
轻展云笺,一行诗下明月隐。
空が遠く交響曲の雨蛙鳴く
远空,交响曲,雨蛙鸣。
雨緑の衣の濡れ青蛙
雨,绿衣湿,青蛙。
里程碑の数字残して春の旅
里程碑上的数字残留,春之旅。
天上の墨流しけり硯の夜
天上之墨流也,砚之夜。
海は銀山が崩れし白波か
海是银山崩,白波吗?
洗脳「愚」の一字の残り蟻地獄
洗脑,愚之一字留,蚁地狱。
純粋な海呼吸して鯨浮く
纯粹之海呼吸,鲸浮。
月光に「月光の曲」の水の音
月光中,月光曲之水之音。
皎々と月の浮世や八月十五日
明月皎皎之浮世呀,八月十五日。
喜雨亭中快哉叫ぶ春の雷
喜雨亭中呼快哉,春雷。
透明な山を叩いて泉湧く
透明之山叩,泉涌。
一望の砕銀や月の海上
一望之碎银呀,月之海上。
星愁ふ億万劫や天の川
星愁,亿万劫呀,天之川。
春雨の一滴に触れる玉の肌
春雨一滴触,玉肌。
秋雨や吾の心を攪乱す
秋雨呀,搅乱我心。
雨月夜や月模糊として雨心事
雨月夜呀,月模糊,雨心事。
高き樹に一唱三嘆の蝉鳴く
高树之上,一唱三叹,蝉鸣。
桃花の自己陶酔や鏡中
桃花自我陶醉呀,镜中。
少年の詩稿を焚きて秋灯下
少年诗稿焚,秋灯下。
秋の暮詩人は老いて詩は不朽
暮秋,诗人是衰老,诗是不朽。
巨獣臥咆哮不休白の滝
巨兽卧,咆哮不休,白瀑。
名月の最も明き故郷なり
明月最明之处是故乡。
一筋の川の脉摶つ春の潮
一条河的脉搏,春潮。
銀箔や余白を崩す冬怒涛
银箔呀,余白崩,冬怒涛。
寒雷の爆音として天崩れ
寒雷轰鸣,天崩。
月満ちて天上一柄白団扇
月满,天上一柄白团扇。
一本道二三子私語息白し
一本道,二三子私语,息白。
一個々の魂の凍て大地上
大地上,一个个的灵魂都冻住了。
太陽の中の火の蕊向日葵あり
太阳中的火焰之蕊呀,向日葵。
一本の沈黙を破る梅早し
一树沉默破,早梅。
星透る望遠鏡の天の川
星透,望远镜中的银河。
お時計を秒針泳ぐ時間海
表上的秒针在游泳,时间海。
雪晴や日光溢れて樹の白さ
雪晴呦,日光溢出,树犹白。
黄葉散る金風は掃く廃寺秋
黄叶散,金风在扫,废寺秋。
高潔の一筆そして梅の花
高洁之一笔,梅花。
星空の漣として梵字書く
星空的涟漪,书梵字。
推敲をして桜散る詩眼かな
推敲,樱花散,诗眼吗?
百代の過客光陰で泳ぎなり
百代之过客,在光阴中畅游。
蚊一匹我の近くを徘徊す
一只蚊子,靠近我,不断徘徊。
海憶う自由の国や鯨浮く
回忆起海,这自由的国度呀,鲸鱼浮出水面。
体内の海が傾く春愁
体内的海倾倒,春愁。
一落暉山山落暉秋の暮
一落晖,山山落晖,暮秋。
夕波に落日遠し捨小舟
夕波中,落日远,弃舟。
星辰の演奏に酔う天の川
星辰在醉中演奏,银河。
飛流直下三千尺髪洗ふ
飞流直下三千尺,洗发。
種浸し夜の河浮いて星無数
种浸,夜河上浮出星无数。
雪を積む光の重さ玉一枝
积雪,光的重量,玉一枝。
雨の月点滴の滴の空白
雨月,点滴之滴之空白。
人間に愁が流れる無際限
人间愁流,无极限。
春愁の細胞体まで顕微鏡
春愁之细胞,显微镜。
麻酔覚め全身真珠海明ける
麻醉觉,全身珍珠,海明。
四大の地・火・水・風あり露微塵
四大有地・火・水・風,露微尘。
月光負う全身珠玉露の秋
月光负,全身珠玉,露之秋。
清浄と一晩泊めて月の寺
清净,一晚停泊,月之寺。
百代の過客七竅春愁
百代之过客,七窍春愁。
一望の山玉の如き雪真白
一望之山如玉,雪真白。
青空や点線を引く鳥帰る
青空呀,虚线引,鸟归。
囀や三千世界共鳴し
啭呀,三千世界共鸣。
月一分四山の濃さ梅三分
月一分,四山浓,梅三分。
歯車は思想の歩幅天の川
齿轮是思想的步伐,银河哟。
熱烈な恋をしている水喧嘩
热恋哟,水喧哗。
地球儀を転がして行く秋万里
转动地球仪,作旅行,秋万里。
履歴書にきらきら光る天の川
履历书熠熠生辉,银河。
百年の沈没船に水澄めり
百年沉默船中,水澄澈。
仰向いて蛍光図持つ星月夜
仰向,荧光图持,星月夜。
哀愁の両腹が鳴く法師蟬
哀愁之两腹鸣,法师蝉。
瓶底に沈殿物がある銀河
瓶底的沉淀物呀,银河。
澎湃と心音を聞く滝しぶき
听到澎湃的心跳声,瀑沫横飞。
万国の空清く澄む月天心
万国之清空澄澈,月天心。
凍蝶を尋ねて月球の背面
寻找冻蝶,在月球的背面。
永劫の灰が火山を覆う月
永劫之灰覆盖火山,月。
黒板に白墨で書く天の川
黑板上白墨书,银河。
聴診器当てて吾が胸秋寒し
听诊器紧贴我的胸口,秋寒。
唇に口紅の燃え朝寒し
唇上,口红燃烧,朝寒。
海の先天的性格怒涛来る
海的先天性格,怒涛来。
消極の詞を共に吐く冬深し
消极之词共吐,冬深。
観覧車茫茫と森霧氷かな
观览车,茫茫之森,雾冰哉。
枯山や余白埋める木の光
枯山啊,填补空白,树隙的光。
枯蘆に捨舟隠し風眠る
舍舟隐匿枯芦中,风眠。
空蟬や失禁の魄散つてゐる、
空蝉呐,失禁的魂魄消散。
凩や青筋立てて木の怒り
寒风呀,青筋暴突,木之怒。
黄昏の十三陵や草枯るる
黄昏的三十陵呀,一片枯草。
この比喩の流れの終り水涸るる
这个比喻之流终止了,水干涸。
透明な身体傾く天の川
透明的身体倾斜,银河。
静静と地球は廻る春眠し
地球静静地旋转,春眠。
火の俳句一行の焦げ枯れ芭蕉
火之俳句一行焦,枯芭蕉。
春風の吟や詩巻を翻す
春风如吟咏,故将诗卷翻。
空蟬の中の光の溢れ出す
空蝉之中光溢出。
永劫や琥珀の中の蚊の眠り
永劫呀,琥珀中的蚊子长眠。
深窓の心の寂びし花衣
深窗之心寂,花衣。
しんしんと枝に雪降る銀肢体
颤颤的枝头上雪降下,银色的肢体。
煌々と日月のπ去年今年
日月煌煌之π,去年今年。
初電車脳中意識奔流す
初电车,脑海中的意识奔流。
水瓶や粲然として星月夜
水瓶呀,粲然,星月夜。
漂流する吾亦憐汝梅一輪
漂流,吾亦怜汝,梅一朵。
十五夜の玉蟾策いて李太白
十五夜,策玉蟾,李太白。
梅一輪壽陽公主の額に
梅一朵,寿阳公主的额头上。
寺壁に詩の一行春の雨
寺壁上,诗一行,春雨。
病床に瀕死の声や蟬時雨
病床上,濒死之声呀,蝉时雨。
白魚の泳ぐ天地の逆旅
白鱼泳,天地逆旅。
頂に一息吐くや雲の峰
顶上,喘气呀,云峰。
蠹魚泳ぐ時間忘れて書の海
蠹鱼泳,时间忘,书海。
脳内に銀河や意識奔流す
脑内的银河呀,意识奔流。
卍の字の回る仏天の川
卍字回旋,银河。
乱世の变の姓名蟬の殻
乱世中,变姓名,蝉蜕。
梧桐を濯ぐ枯死けり潔癖症
洗梧桐,枯死,洁癖症。
飛行機や雲の一痕として空
飞行机呀,云一痕,天空。
一行の透明の诗句雨水かな
一行透明的诗句,雨水吗?
薄氷を踏みて一寸の裂帛かな
薄冰踏,一寸之裂帛吗?
盲人の手で軽触る春落葉
盲人之手轻触,春落叶。
十年の心跡の乱花吹雪
十年心迹乱,花吹雪。
梅真白林逋の妻は薄化粧
梅真白,林逋之妻是淡妆。
一夜江山玉琢成雪の宿
一夜江山玉琢成雪之宿
鶴や獨與天地精神往來
鹤呀,独与天地精神相往来。
冬怒濤の海の上は前衛書
冬怒涛之海上是前卫书。
虚無の目も一瞥しては夢の花
虚无之目一瞥是梦之花。